シナスタジアというのは、例えば音楽を聴いた時に、色や形や味がしたり、言葉や名前を聞くと触感や色でそれらを体験したりすることを言います。
シナスタジアはひとつの感覚に限らず、異なる複数の感覚を通して何かを感じ取るということ。

「シナスタジア」はギリシャ語が語源で、「一緒に捉える」というような意味です。
ちなみにシナスタジアは病気や障害の類ではありません。ですが、場合によっては読み書き、計算などの学習の妨げになったりするため、「自分はバカだ」と思い込み、成功体験の積み重ねがあまりないまま育つので、二次的に鬱病などになりやすいことがありますし、最近の研究では、自閉症スペクトラムとの関係も深いことが分かってきました。
いちばんよく見られるシナスタジアでは、文字や数字や音に「色」が見えるというもの。
私自身、小学校に上がり、算数の授業が始まると、計算ができなかったという経験があります。何故かというと、数字は色の印象がとても強く、3+7= という質問に対して、3は、オレンジ。7は黄色。 なので、濃い卵の黄身のような色。が答えでした。

それを「数字で答える」ということは不可能で、今度は、+という記号に「赤」が加わり、-という記号に「青」が加わり、それを無視しようとしたり、それを加えてみようとしたりして、頭が混乱していた記憶があります。九九は、音と色の組み合わせで数字を記憶し、そのまま言えばよかったので苦労しなかった記憶もあります。
母はあまりにも私が計算が苦手だったのを心配して、問題集を買ってきたり、そろばんをさせようとしてみたりしましたが、私にはさっぱり分からなかったのです。いつしか、「もしかして、私が聞かれているのはこういうこと?」と辻褄が合い始めたのは小学校3-4年の時だったような気がします。
その他、
人によっては
匂いに音を感じたり
人の痛みを自分の身体の中で感じたり
音に形を見たり
何かに触れると音が聞こえたり
言葉に味があったり
色々なパターンがあるようです。
また、ひとつではなく、いくつもの違うシナスタジアが重なることがあります。

どんな人がシナスタジアを持って生まれるのでしょう?
左利きの人の方がシナスタジアを持っている可能性は高いそうです。
それもあってか、どちらかというと右脳の働きの影響を受ける芸術的な感覚を持つ人がシナスタジアに多いとも言われます。全人口の1%-4%ほどの割合でシナスタジアが生まれます。また、先ほども書いたようにシナスタジアは自閉症スペクトラムとも関わりがあることが分かって来ており、感覚処理の問題であることも分かってきています。「問題」とはいえ、上手く使えればそれは才能となりうる要素は大いにあります。また遺伝の要素が強いようです。
シナスタジアの種類
Chromesthesia(クロームスタジア)
音を色で見るタイプのシナスタジアのことを言います。赤ちゃんの泣き声ひとつにしてもその泣き方で違う色が見えます。車のクラクションでも、同様に車種によって違う色が見えます。
傾向として、高い音は明るい色で、低い音は暗い色になります。何となく分かる―という人もいるかもしれませんが、シナスタジアの人にとっては、「何となく」ではなく、ハッキリと瞬時に色が見えます。
Mirror touch synesthesia (ミラータッチシナスタジア)
他人の身体の感覚を自分の身体の中で感じるタイプのシナスタジアです。
これの軽いバージョンは親子間などで起こるような気がします。子どもが具合が悪い時、自分も具合が悪くなって分かるという人も稀かもしれませんがいるのではないでしょうか。
ミラータッチシナスタジアの場合、他人の痛みや痒み、圧、疲労感など、全く同じように同じ身体の箇所で自分の中に感じます。ですが、ミラーというだけに、子どもが左手が痒いと言っていると、それを見ている自分は右手が痒くなるという話もあります。まだまだ分かっていないことが多いらしく、こちらも感覚処理が上手くいかず、活動過多になっている可能性があるようです。
Auditory-Tactile Synesthesia (オーディトリ―タクタイル シナスタジア)
Auditory-Tactileとは文字通りに訳せば聴覚-触覚 です。このタイプのシナスタジアは音を聞く時に触感を捉えます。音楽を指で触るような感じがするらしいです。ミュージシャンにはそのタイプが多いようです。音の並びでシルキーな感じがするとか、小さな泡がポコポコしている感じとか、そういう表現を音楽家たちはするので、このタイプが意外と多いのかもしれませんね。
Tactile Synesthesia (タクタイルシナスタジア)
先度、タクタイルは触感という意味であると書きましたが、このシナスタジアは、何かに障った時に形や色が見えるタイプです。セラピストになるような人の中には、タクタイルシナスタジアがいるような気がします。人の身体に触るとそこから色が見えるというのが典型的でしょう。それを元に人の身体の調整を行うことが出来る人もいる筈です。人の体温や身体の硬さなども色で見えるということでしょう。
Grapheme Synesthesia (グラフィーム シナスタジア)
グラフィームは言葉の中にあるシラブルの一部のようなもののことを言いますが、日本語的には文字、と言ってもよいかもしれません。「あ」という平仮名を見たら、色が見えるというもの。もしくは単語に色が見えるような感じです。もちろん、「りんご」という言葉を見たら、多くの人が「赤」と思うかもしれませんが、名詞に限らず、言葉や文字の全てに色があります。これがいちばんよくあるタイプのシナスタジアですね。私もいくつかシナスタジアがある中でこれがいちばん強いです。
Lexical-gustatory Synesthesia (レキシカル ガステトリー シナスタジア)
レキシカルは言葉に関係すると言う意味で、ガステトリーは味に関係がるという意味です。
言葉を聞いたり、見たりすると、味やテクスチャーと繋がるシナスタジアです。例えば、クラスの中の山田くんは、親子丼の味。田畑くんは、タコス。山内さんはビンダル―。みたいな。楽しそうですね。
また、コンセプトや雰囲気などに色を見ることもありますが、それは何となくシナスタジアの人じゃなくてもありそうな気がしていますが、どうなのでしょう。
まとめ
最初に書いたように、シナスタジアは病気や障害ではありません。病院にいっても今現在、障害として診断されるようなことはありませんが、その背景には感覚処理の問題があることから、自閉症スペクトラムや学習障害と結びついていることもあり、もし日々の生活の中で色々な困難を感じたりするのであれば専門家に相談することも大事です。
ちなみに私の実体験では、専門家にみてもらっても、シナスタジアが消えることはありません。ただ、大人になるにつれ、ニューロティピカル(定型)の人たちの表現や意味するところを学ぶので、それに応じて「普通の」表現に変えているだけです。ただ、他に苦しんでいる部分を育てることができれば生きやすくなるのではないかなと思います。
自分という人は自分の感覚を通してでしか体験できないので、他の人たちがこの世界をどういう風な感覚で捉えているのか分からず、自分がシナスタジアであることに気付くのは随分大人になってからだったりします。シナスタジアのある人は芸術活動をするか、研究活動をする人などが多いので、もし、子どもで色や音などの表現が豊かであったり、何かひとつのことを深く考えていくような傾向があるのなら、シナスタジアがあるかどうか良い意味で疑って、どんな世界を見ているのか表現してもらってみてください。必ずしもそれが言葉ではなくても絵や音楽、子どもによっては素晴らしい空想の世界でそれを体験しているかもしれません。